【古事記の世界】ミュージカルを思わせる神語り

オオナムチは国へ戻ると八十神を打ち倒して、国土を統一します。葦原中国(あしはらのなかつくに)の主、オオクニヌシとなりました。

さて、このオオクニヌシは多くの矛を持つ武神、ヤチホコとも呼ばれました。そのオオクニヌシは、高志国(こしのくに)のヌナカワヒメに求婚しようと思って、出かけて行きました。そしてヌナカワヒメの家の前で歌いました。

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「高志国に賢い、美しい女神がいると聞いてやって来ました。戸が開かないので、戸を開けてほしいと戸を押したり引いたりしながら待っていると、鳥が朝を告げて鳴き出してしまいました。私の心の痛みを知らないで鳴く鳥なんて打ち殺して、鳴くのを止めさせたい。」

するとヌナカワヒメは戸を開けることなく
歌を返しました。

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糸魚川市の海望公園にある沼河比売(奴奈川姫)と建御名方命の像

「ヤチホコ神よ。わたしは萎れた草のようなか弱い女ですから、今は、わたしの心は、わたしのものですが、後には、あなたのものになってしまうでしょう。ですから、どうぞ鳥を殺さないでください。青々と生い茂った山に日が沈み、夜になりましたら朝日のような笑顔でおいでください。そう、むなみに恋い焦がれないでください。ヤチホコ神よ。」こうして、ヤチホコ神は、やって来た夜は、ヌナカワヒメに会うことができす、明くる日の夜に、ようやく会うことができました。

それを知った正妻のスセリビメは、とても嫉妬したので、夫のヤチホコ神はひどく困って、出雲から大和国においでなろうとしました。いよいよ出かけようと、馬に鞍(くら)をかけ、鐙(あぶみ)に足を片足をかけた時に、ヤチホコ神は歌いました。「愛しい妻よ。わたしが、出て行ってしまったなら、おまえは、うなだれて悲しむのだろうか。」

スセリビメは、酒を入れた杯をもって駆け寄り、歌いました。
「ヤチホコ神よ。わたしのオオクニヌシ神よ。あなたは男ですから、あちこちに妻をお持ちでしょう。でもわたしは女ですから、あなたのほかに夫はありません。どうか、わたしと手足を伸ばして伸び伸びと休みましょう。さあ、お酒をお召し上がりくださいませ。」

こう歌って、酒を交わして誓いを結び
オオクニヌシ神とスセリビメは、お互いの首に腕をかけて抱き合いました。
こうして今に至るまで出雲に鎮座することになったのです。

この歌を神語り(かんがたり)といいます。


~豆知識~

古事記は時に歌を中心になって物語を進められます。古事記には、合計120首の歌が収録されていて、恋愛だけではなく戦も含め時に、歌を中心に物語が進められます。